―なぜ涙を―

私が船出をするとき
嘆きの涙は欲しくない
永遠(とわ)の国へ私を急がせる
嗚咽(おえつ)も溜息も欲しくない

私の行く道を悲しくする
喪章や打ち沈んだ衣服を身につけないで欲しい
そのかわりに白く輝かしく よそおって
古い習わしを忘れて欲しい

私が去り行くとき
挽歌を歌って欲しくない
うるわしき良き日のために
愛の手で高き調べをかなでて欲しい

私のために このような言葉を言って欲しくない
彼の生命(いのち)の灯(ともしび)は消え 去っていったと
ただ こう言って欲しい
彼は今日 旅に出て 旅を続けていると

別れの涙があふれたら
そっと その日をそのままにしておいて欲しい
私を惜しむことなく 共に過ごした日々を喜んで欲しい
そして こう言って欲しい 「満ち潮だ。よい船旅を」

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