食道がんの発生と進行

食道がんは食道の真ん中か、下1/3に最も多く発生します。がんは食道の内面をおおっている粘膜の表面にある上皮から発生します。食道の上皮は扁平上皮でできているので、食道がんの90%以上が扁平上皮がんです。がんが大きくなると食道の壁をつくる筋肉に入り込みます。もっと大きくなると食道の壁を貫いて食道の外まで拡がっていきます。食道の周囲には気管・気管支や肺、大動脈、心臓など重要な臓器が近接しているので、がんが進行しさらに大きくなるとこれら周囲臓器へ拡がります。

食道の壁の中と周囲にはリンパ管や血管が豊富です。がんはリンパ液や血液の流れに入り込んで食道を離れ、食道とは別のところに流れ着いてそこで増えはじめます。これを転移といいます。リンパの流れで転移したがんは、リンパ節にたどり着いてかたまりをつくります。食道のまわりのリンパ節だけではなく、腹部や首のリンパ節に転移をすることもあります。血液の流れに入り込んだがんは、肝臓、肺、骨などに転移します。

進行度(ステ−ジ)

食道がんの治療法を決めたり、また治療によりどの程度治る可能性があるかを推定する場合、病気の進行の程度をあらわす分類法、つまり進行度分類を使用します。わが国では日本食道疾患研究会の「食道癌取扱い規約」に基づいて進行度分類を行っています。各検査で得られた所見、あるいは手術時の所見により、深達度、リンパ節転移、他の臓器の転移の程度にしたがって病期を決定します。

III期  (僕の場合)

がんが食道の外に明らかに出ていると判断された時、食道壁にそっているリンパ節か、あるいは食道のがんから少し離れたリンパ節にがんがあると判断され、他の臓器や胸膜・腹膜にがんが認められなければIII期と分類します。

治療  外科療法  手術は身体からがんを切りとってしまう方法で、食道がんに対する現在最も一般的な治療法です。手術ではがんを含め食道を切除します。同時にリンパ節を含む周囲の組織を切除します(リンパ節郭清)。食道を切除した後には食物の通る新しい道を再建します。食道は頸部、胸部、腹部にわたっていて、それぞれの部位によりがんの進行の状況が異なっているので、がんの発生部位によって選択される手術術式が異なります。

胸部食道がん
原則的に胸部食道を全部切除します。同時に胸部のリンパ節を郭清します。胸の中にある食道を切除するために、左側では心臓が邪魔になるので右側の胸を開きます。開胸を行わずに頸部と腹部を切開し食道を引き抜く術式(食道抜去術)もあります。食道抜去術は開胸による食道切除と比較して手術侵襲が軽くてすむ反面、食道の周囲の胸の中のリンパ節を切除することができません。最近では胸腔鏡を使って開胸せずに胸の中のリンパ節を切除する方法も試みられています。胸部食道がんでは、腹部や頸部のリンパ節にも転移をおこすことが多いので、腹部や頸部のリンパ節も郭清します。

食道を切除した後、胃を引き上げて残っている頸部食道とつなぎ、食物の通る道を再建します。胃が使えない時には大腸を使います。胃や大腸を引き上げる経路により、前胸部の皮膚の下を通す方法・胸骨の下で心臓の前を通す方法・もとの食道のあった心臓の後ろを通す方法の3通りがあり、それぞれの病態により選択されます。

放射線療法

放射線療法は手術と同様に限られた範囲のみを治療できる局所治療ですが、機能や形態を温存することをめざした治療です。高エネルギーのX線などの放射線を当ててがん細胞を殺します。放射線療法には2つの方法があります。放射線を身体の外から照射する方法(外照射)と、食道の腔内に放射線が出る物質を挿入し身体の中から照射する方法(腔内照射)です。また、放射線療法は治療の目的により大きく2つに分けられます。がんを治してしまおうと努力する治療(根治治療)と、がんによる痛み、出血などの症状を抑さえようとする治療(姑息治療、対症治療)です。
抗がん剤治療
抗がん剤治療はがん細胞を殺す薬を注射します。抗がん剤は血液の流れに乗って手術では切りとれないところや放射線を当てられないところにも、全身に行き渡ります。多くは他の臓器にがんが転移している時に行われる治療ですが、単独で行われる場合と、放射線療法や外科療法との併用で行われる場合とがあります。
3月3日から、放射線治療と科学療法(抗がん剤)が始まる。
3週継続1週休み(1クール)を2クール
ドセタキセル(Docetaxel)40mg/body TS−1 90mg/body
RT(放射線) 1.8Gy/day   T字照射 最終日4月20日

治療後の通院
がんの治療後は、機能の回復をチェックし、再発の早期発見のために通院する必要があります。治療後に食事が順調に食べられるようになるまでは、がんの進行度にかかわらず1ヶ月に1回程度の診察を受けます。

がんの進行度が進んでいて再発の危険度が高い方ほど通院する回数が多くなります。時間がたつほど再発の危険度は減り、3〜6ヶ月に1回程度の診察となります。

再発

最初の治療で完全に消えたようにみえても、わずかに残っていたがん細胞が増殖して症状が出たり、検査などで発見されるようになった状態を再発といいます。食道がんの再発のほとんどはリンパ節と肺、肝臓などの臓器や、骨への転移です。首のつけ根のリンパ節に再発すると首がはれてきたり声がかすれたりします。胸や腹部の奥のリンパ節に再発すると背中や腰に重苦しい痛みを感じます。肺や肝臓への転移は大きくなるまではっきりした症状は出ません。しかし、体重が減ったり、食欲が落ちる、疲れやすくなるといった症状が出ることがあります。肺の転移が大きくなると胸の壁を押して咳が出たり胸の痛みを感じたりします。肝臓の転移が大きくなると腹部がはって重苦しく感じます。骨への転移は痛みを感じます。もともとのがんが大きかった場合には、がんがあった場所に再発することがあります。気管や気管支に再発すると、咳が出たり血もまじった痰が出たりします。

再発の場合には、再発した部位、症状、初回治療法およびその反応などを考慮して治療法を選択します。手術をすることはほとんどありません。胸の奥や腹部の奥のリンパ節への再発には放射線治療か抗がん剤治療を行います。肺や肝臓、骨への転移は抗がん剤治療を行います。その他、モルヒネなどの痛み止めを用いる症状緩和のための治療が選択されます。

どのような治療をしても、再発したがんが治る可能性は非常に少ないと考えねばなりません。再発した場合には、およそ半年ぐらいの余命と考えられます。放射線や抗がん剤の治療で1年以上生きられることもありますが、がんの進行が早ければ3ヶ月以内のこともあります。

生存率

悪性度が高いといわれる食道がんでも、いわゆる早期のがんの治療成績は良好です。0期のがんでは内視鏡的粘膜切除術で切除された後の5年生存率は100%です。粘膜にとどまるがんでは内視鏡的粘膜切除術で切除できない場合でも、手術で切除できれば5年生存率はほぼ100%です。がんが粘膜下層まで拡がってもリンパ節転移をおこしていなければ、手術で80%が治ります。日本食道疾患研究会の「全国食道がん登録調査報告」では、手術でとりきれた場合の5年生存率は、ほぼ54%に達しました。

国立がんセンター中央病院で1992年〜1996年に手術を受けた方の5年生存率は、TNM分類による進行度I期:78.8%、進行度IIA期:58.6%、進行度IIB期:50.9%、進行度III期:32.4%、進行度IV期:19.0%でした(食道がん以外の原因で死亡した場合も含みます)。

これまでは外科療法が主な治療法でしたが、シスプラチンとフルオロウラシルの化学療法が積極的に導入され、さらに放射線治療に化学療法を併用する方法も試みられています。放射線療法と化学療法の同時併用療法で、手術治療と同じ5年生存率が得られたという報告もあります。

しかし、他の臓器にがんが拡がっている方、多くのリンパ節にがん転移を認める方に限定すると、外科療法でも放射線療法と化学療法の同時併用療法でも治癒は困難です。残念ながら、高度に進行したがんを治癒できる治療法は確立されていないということです。

したがって、早期発見が治療成果を向上させる鍵です。検査を恐れず、少しでも症状があったら検査を受け、早期発見・早期治療を行うことが大切です。どのがんでもそうですが、特に食道がんはいったん進行すると急に治癒率が下がります。早くがんを見つけるためには日頃から食道の症状についても注意が必要です。

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